[ブログ] 楽譜de散歩
2013.05.31 楽譜出版社の思い

楽譜コピーについて 韓 貴峰(CARS幹事/日本楽譜出版協会)

【執筆者】韓 貴峰(CARS幹事/日本楽譜出版協会)

昨年のちょうど今頃は、楽譜出版も含めた出版界全体の20年来の悲願であった、出版物の版面等に付与される“出版者への著作隣接権”の法制化がついに実現か、と出版業界全体が相当に盛りあがっていました。私が所属しております日本楽譜出版協会主催により定例で開催している著作権研修会でも、昨年はメインテーマとして『楽譜出版物に関する〈著作隣接権〉の行方~どう変わる?!楽譜出版~』等をとりあげ、“仮に出版者に隣接権が付与された場合”現状と、何が、どう変わっていくかを想定した講座を、弁護士の方々を講師に招き開催いたしました。

現在は文化審議会・出版関連小委員会にて、文化庁が出版者に付与する権利として提示した「著作隣接権の創設」「電子書籍に対応した出版権の整備」「訴権の付与」「契約による対応」の4つの選択肢について、権利付与による市場への影響、問題点などについての協議を開始しています。今秋までには中間報告をまとめる予定とのことではありますが「著作隣接権の創設」については一部経済界、また著作者の一部からも異論が唱えられていることなどもあり、出版者への著作隣接権が新たに法制化される可能性は、非常に残念ですが、限りなく低いと言わざるをえません。あくまでも私個人の予測にすぎませんが。

さて、話は変わりますが、先日私が実際に応対させていただいた、学校教育に携わっておられる先生からの、楽譜コピーに関する問い合わせを紹介させていただきます。

「合唱コンクール出場にあたり、コンクール主催者より審査員用として5部、楽譜を提出せよとあります。コピーさせてください!前任の合唱部顧問から引継いだコピー楽譜しか手元にはないので、出版社名と曲集名は不明です。多分おたくの出版楽譜では、と問い合わせています。」コピー楽譜をお預かりし確認した結果「当社刊行の楽譜で間違いありません、著作権も存続している楽曲です。曲集の在庫がございますので、今回のようなケースでのコピー許諾はお出ししておりません。申し訳ありませんが生徒さんの人数分も合わせてご購入願います。」とご案内したところ「生徒たちには黒板に書いた楽譜を暗譜させておりますので、生徒用の楽譜は必要ありません。予算が限られているので、審査員用提出分5部のコピーを認めていただけませんでしょうか?教育目的のコピーです。子供たちが是非この曲を歌いたいと選曲いたしました…」まさしく“開いた口がふさがらない”状況でした。

合唱コンクール等への参加目的での楽譜複製は、著作権法第35条の適用外であること。このような状況での楽譜コピーが著作者の創作活動、及び出版者の継続的な楽譜出版の妨げとなり得ることなどを説明させていただき、一応は納得していただきましたが。

今回のケースのように、教育現場での楽譜コピーについて、誤解されてしまっている先生方がまだまだいらっしゃるのが現実です。しかしながら、ここ数年間で合唱コンクール参加等に係わる、コピーの問い合わせが減ってきていることも実感しています。印刷、製本技術等の進歩でオンデマンド(受注生産)による楽譜刊行が容易になり、インターネット上での楽譜ダウンロード販売等も広く利用されることにより、いわゆる“絶版楽譜”が確実に減少していることが理由の一つでしょう。さらには2004年の発足以降CARSで行われてきた楽譜コピーに関するリーフレット配布ほかの、地道な啓発活動による成果の表れではないでしょうか。

楽譜コピーに係わる様々な問題の、劇的な改善は今後も望めそうにはありませんが、ユーザーの意識が確実に高まってきていることも事実です。

楽譜が適正に利用されるよう、微力ではありますが引き続きCARSの啓発活動に携わっていきたいと考えております。