変わりゆく音楽の聴き方 韓 貴峰(CARS幹事/日本楽譜出版協会)
つい最近まで、通称ガラケーと呼ばれている従来型携帯電話で何の不自由もなく過ごしておりましたが、新規回線契約者獲得のための携帯端末過剰値引き是正を、政府が携帯各社に要請したニュースを目にし、駆け込みで自分も最後の値引き恩恵にあやかろうかと、いささか安易とは思いつつもスマートフォンに乗り換えることとなりました。ガラケーにはなかった、日常生活の利便性向上に直結した優れた機能に満足する反面、今更ではありますが電波障害、サイバーテロ等により使用不能になってしまった場合、果たしてスマホに依存した日常から従前の生活に戻れるのかな~?と、日々加齢に伴う順応性の低下を実感している身としては、本気で少々不安になったりもしています。
昨年の春ごろから、様々な定額制音楽配信が日本でも本格的にサービスを開始しています。(ストリーミングという形態。音楽データをユーザーが所有するのではなく、その都度配信会社にアクセスして音楽を聴くシステム)その配信曲数の多さ、安価な利用料等、世の中に結構なインパクトを与えたのではないでしょうか。各社それぞれ配信曲数、利用料等は異なりますが、メジャーな配信会社では月額980円の利用料で約3,500万曲が聴き放題というシステム。一生かかっても聴ききれない、とてつもない曲数であることに違いありません。
遅ればせながら、2週間ほど前から私も主に往復2時間程度の通勤電車内で利用を開始、通信上のストレス等もなく快適に音楽を楽しんでおります。CDを購入してまでは聴かなかったジャンルにも興味を持ってみたり、名前も知らなかった演奏家の録音に意外と惹かれてみたり。もちろん希望する楽曲、バージョンが100%配信リストにあがっているわけではありませんが、極端にマニアックな選曲でなければ、何かしらの音源には行き当たる印象です。一音楽愛好者にとっては本当に有難い画期的なシステムと思ってはいるのですが、音楽出版に携わる身としては、膨大な数の“所有しない音楽”普及により、カセット・レコード・CD等の時代には、ほとんどの聴き手が少なからず感じていた音楽の価値、作家・アーティストへの愛着、敬意等は、そのあまりの手軽さが災いして確実に希薄化してしまっていくのでは?と憂慮せずにはおられません。
テレビ・ラジオから流れる曲を、息を殺してカセットに録音し何度も聞き返してみたり、レコードジャケットを大切に飾ってみたり…こんな時代には戻れないのでしょうが。今後は定額制音楽配信が主流になるとも言われています。手軽さゆえの“音楽の使い捨て”が若い世代に蔓延することだけは何とか避けたいものです。