二足のわらじ 江見 浩一(CARS幹事)
「白鳥の湖」「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」などバレエ音楽で有名なロシアの作曲家、チャイコフスキー。
このほかにも、数々の傑作を残しています。とにかくメロディが豊かで、叙情性あふれる色彩豊かな音楽は、正に音の芸術です。
意外なことに、チャイコフスキーは、決して音楽一筋の作曲家ではありませんでした。10代の頃は法律学校に進学し、卒業後は法務省に勤める役人でした。その道でも、将来が約束されているエリートだったようですが、生来の音楽好きは、自分の楽才を試そうと、役人を続けつつ音楽院に入学し、しばらくは、役人と学生の二足のわらじを履く生活を続けます。その後、役人を辞め、音楽家へ。音楽家が尊敬されていなかった当時のロシアでは、相当な勇気と決意が必要な転身だったようです。
CARSの代表幹事を務められていて、去る6月5日に急逝された小森昭宏先生も二足のわらじを履いておられた作曲家でした。小森先生は、脳外科医。膨大な知識と高い専門的技能が求められる仕事に従事される傍らで、作曲家としての先生は、「いとまきのうた」「げんこつやまのたぬきさん」「黒猫のタンゴ」など子供たちの心に深くしみる優しい楽曲をいくつも作られています。先生の幅広い人間性に改めて感服させられます。
先生は、生前の対談で「どっちも同じなんですよ。医者っていうのは患者さんの病気を治して元気になって喜んでいただく仕事でしょ?作曲家も同じですよ。曲を聴いて喜んでもらって元気になっていただくのが仕事ですから。世の中の仕事ってその点は共通だと思いますよ。」(※)とおっしゃっています。仕事は人のためにする、ということでしょうか。一方、チャイコフスキーも「多くの人々が私の音楽に助けとなぐさめを見いだすように」との言葉を残しています。どこか共通するものを感じます。
CARSの活動も小森先生の「仕事は人のためにする」という精神に支えられてきました。仕事の傍らで楽譜コピーの問題に正面から向き合ってこられた小森先生。先生は、CARSが行ってきた様々な啓発活動において常に先頭に立っておられました。先生のおかげで、楽譜コピーの問題が、多くの人々に伝わり、理解の輪が広がったことと思います。我々は、数々のご功績があった先生に感謝しつつ、先生が築かれた礎をしっかりと受け継ぎ、更に発展させなければなりません。
※「楽譜のコピーについてこう考える」第5回
http://www.cars-music-copyright.jp/talk01_ootani.html#3