空飛ぶ楽譜 江見 浩一(CARS幹事)
明けましておめでとうございます。
新年の恒例行事はいくつもありますが、音楽界で忘れてはならないのが、ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートです。毎年、世界の90以上の国でテレビやラジオを通じて発信されています。好むと好まざるとにかかわらず、華やかさと贅沢さに関しては、右に並ぶコンサートはないかもしれません。今年も、日本では1日の夜に生放送されていました。
このコンサートで毎回演奏される曲は何曲かありますが、おそらく最も有名なのは、アンコール曲として演奏される「美しく青きドナウ」でしょう。ヨハン・シュトラウス二世が作曲したワルツであり、オーストリアの第二の国歌とも言われています。かのブラームスが友人のシュトラウス二世の継娘に贈った扇子にこの曲の冒頭の数小節を書き、「残念ながら、ヨハネス・ブラームスの作品にあらず」と書き添えたことは多くの人が知るエピソードです。大作曲家が羨むくらいに特別なものを持った楽曲ということでしょうか。確かに、この曲を聴くと、現実的なことは忘れて、踊りに誘われ体が動き出すような、そして「この先に、きっと良いことが待っている」と思わず信じてしまう、そんな力を持っている曲です。そういう意味では、1年の最初に聴くにはもってこいかもしれません。
この曲のメロディが、今や、空を飛んで世界に広められている、ということをご存知でしょうか。放送の電波に乗って飛んでいるといった抽象的な意味ではありません。この曲の楽譜が物理的に空を飛んでいるのです。オーストリア航空が保有する777-200の機体の中に、この曲の楽譜が長さ45メートルにも渡って塗装されている機体があるのです。名付けて「Blue Danube Waltz(ブルー・ダニューブ・ワルズ:美しき青きドナウ)」号。この機体は成田空港にも飛来しているようですので、実際に搭乗したり、ご覧になった方もいるかもしれませんが、清潔な白い機体に踊るように描かれた楽譜は、この曲のイメージにぴったりと合っています。
機体に楽譜とは随分と大胆ですが、空港で他の機体と一緒に見ると、驚きがありますし、楽譜であると分かる、次には一体何の曲だろう、と興味が湧いてきます。言うまでもなく、楽譜は世界共通の言語です。国境を越えて、飛び回るのに相応しいのかもしれません。楽譜の役割をまた一つ発見した思いです。オーストリアにとっての「美しく青きドナウ」。オリンピック・イヤーの今年、他の国だったらどんな曲が相応しいのか、と考えてみるのも面白いかもしれません。