新たな仲間たちへの想い 下條 俊幸(日本楽譜出版協会 理事長)
さすがに今、誰もが辟易するコロナ関連の話題を切り口に出すまいと自身に言い聞かせ、ブログ草稿の準備にかかるものの、昨年1月、中国武漢市で原因不明のウィルス性肺炎の発症が相次ぎ、瞬く間に世界中に広がった新型コロナウィルス。それから一年超にわたる経済への打撃と、国民が等しく苛まれた社会環境の激変という現実が、頭から離れそうになく、ほぼ諦めかけた時、たまたまスイッチを入れたテレビで、大阪にある某高校吹奏楽部の、この一年の活動と卒業演奏会の様子を伝えるバラエティー番組を見た。
生徒の自主性を第一義とする終始一貫した指導術、オンラインを活用したテュッティ。教師が考案するマウスシールドを装着しての練習の日々、無観客でありながらでも感動的な卒業演奏会の様子等々。音楽の持つ力を改めて認識した。少なくとも清々しく爽やかな若者たちが主人公だからではない。
学生の頃、寝ても覚めても楽器を演奏したい、気の合う仲間とともに楽しみたいという、単純であり純粋なその楽器演奏への自身の欲求を、改めて、懐かしさとともに思い起こすと同時に、出演者である彼等、彼女たちにとって、青春時代の限られた時間の中で、目の前の問題を一つ一つ解決しながら、ひた向きに努力し続けている姿を眺めた時、音楽行為が内在するエナジーを感じる。
この業界に身をおく人は、そのエナジーを自身で体験し、喜びを共有したいという気持ちが原点にある人が多いのは、業界の一つの特徴であろう。それは私も同様で、主役である子供の減少という、私たちにとって悩ましいビハインドをカバーできるとしたら、若い世代の人たちの活気があり、希望に満ちた音楽活動に寄り添うことに他ならない。今紹介した吹奏楽部のメンバーのような愛好家たちへ、私たちからの過剰なサポートは必要ない。それは、すでに彼らは音楽表現の上では、「自立」しているから。私たちの役割があるとしたら、彼らの活動を傍らで見守り、時にオーディエンスとして、演奏を一緒に楽しみ、そして喜びを分かち合うことで十分なのである。
反対に、コロナ対策としてのこの抑制された生活環境によって、新たに「音楽」への仲間入りができる機会を消極的ではあっても奪った一年であったことに違いはない。学校教育におけるクラブ活動しかり、民間の音楽教室においても、新入生徒の減少は特に激しかったようだ。そういった傾向は、私たち楽譜出版社にとっても、残念なことではあるが、実に明確な実績として表れた。概ねすべてのジャンルにおいて、導入教材、初歩教材が、後続教材と比較し勢いがないのである。徐々に回復してきているものの、「音楽との出逢い」となる機会が極端に少なくなったことは紛れもない事実である。
この現実を客観的に受け止め、新たに加わった音楽仲間たちへ「自立」に繋がるサポートが、コロナ禍の今、私たちの重要な役割であろう。
一般社団法人日本楽譜出版協会のホームページ http://www.j-gakufu.com/