[ブログ] 楽譜de散歩
2021.05.06 創作秘話・作家の思い

人の曲をズタズタにして使う権利  菅野 由弘(CARS代表幹事/作曲家)

【執筆者】菅野 由弘(CARS代表幹事/作曲家)

むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが山へ芝刈に、そこへ大きな桃が流れて来て鬼退治、めでたしめでたし。

皆さんよくご存知かと思いますが、「桃太郎」のお話です。いくら皆さんが良く知っているからといって、こんなダイジェストがありますか?お話が伝わるでしょうか?そもそも、これでも桃太郎なのでしょうか?

ある時、テレビを見ていたら、あるバラエティ番組に、私の、つまり菅野の音楽が流れてきました。上流から?いやいや、桃太郎ではありません。私の音楽が流れてきたのです。しかも、ズタズタに引き裂かれて。もちろん私が音楽を担当した番組ではありませんし、そこに使うかどうかの許諾を求められた事も有りません。しかし、現在の制度では、公表された音楽は、著作権使用料を支払えば、使えてしまうのです! 従って、私が別の意図、例えば愛を語るために作った音楽でも、カツ丼のBGMに使っても良いのです。ただし、最初に書いた「桃太郎」のように、「ズタズタに引き裂いて使って良い」とは、どこにも書かれていないはずですが。

こうして書いていると、次に思い出されるのがフィギュアスケートのすさまじい音楽扱い。音楽に対する尊厳を、みじんも感じられません。昨今、評価項目に「音楽」があるやに聞いていますが、元々感性もなく、人の尊厳を踏み躙る事に何の抵抗も感じない人たちが、何を評価しているのでしょうか?それでも最近は、オリジナルの音楽を作曲家とともに制作している選手も出てきて、それはそれは素晴らしい音楽と一体になった演技を披露しているので、希望は大いにあります。問題は、選曲と称して人の音楽を使う場合です。

作曲家が生きている場合はもとより、死んでいるからと言って、その音楽の尊厳を、延いては作曲家自身の尊厳を傷つけても良い事にはならないと思います。死人に口なし、と言わんばかりに、フィギュアスケートの人々は、平気で、音楽と作曲家の尊厳を傷つけ、冒涜しています。もちろん、芸術などよりも、スポーツの方が経済的に優位なので、芸術家達の声など、虫けらとしか思っていないのでしょう。が、それならば、その虫けらの音楽を使わないで頂きたい、と声を大にして申し上げたいと思います。作曲家にとって、その音楽作品は、自分の子供のようなものです。その子供をズタズタに引き裂く行為は、許し難いものです。それは、誰しも理解できるのではないかと信じているのは、人が良すぎると言うことでしょうか?ラフマニノフの名曲、ピアノ協奏曲第二番を、ズタズタにして使い、素晴らしい演技をした選手がいました。その華麗な演技の背後に、引き裂かれたラフマニノフの顔、その目には涙が浮かんで見えました。一寸の虫にも五分の魂、虫けらにも、護りたい尊厳とプライドがあるということを、考えていただければ、と願っています。

そしてここは、楽譜の「コピー問題協議会」のページなので、一言付け加えます。楽譜をコピーして使うことも、作品の尊厳を傷つけ、作曲家の人格を否定することに他ならないのです。是非、そうした作曲家の気持ちを汲んで頂ければ幸いです。