クラブ活動や音楽サークルなどで、今、楽譜がどのように利用されているか、また楽譜の無断コピーを防止するにはどのようにしたら良いかなどを、楽団・合唱団を指導する先生方や関 係者の方々、楽譜出版・販売事業に携わるスタッフに尋ねるコーナー。第9回は、特別篇として、知財教育に取り組む東海大学付属本田幼稚園の高橋功園長先生、石橋宏之先生にお話を伺いました。
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園長髙橋功さん東海大学日本文学科卒業と同時に留学生別科で日本語を教える。1970年より文学部日本文学科助手。児童文学卒論指導に当たる。1974年に幼稚園教諭となる。1980年秦野市教育委員会、幼稚園研修会講師。以後、『幼児教育』『文学・絵本と子ども』をテーマに伊勢原市、大磯町、平塚市の幼稚園協会、伊勢原市、秦野市の図書館、ニューモラロジー協会などの研修会や講演会の講師を務める。
1993年 アメリカ・マジソンにて現地保育実習を研修。2000年より毎年、アンサンブル・ベルム(室内管弦楽団)と共演し、「鶴の恩返し」「花咲かじじ」など昔話の素語りを行う。2003年より大磯町立大磯幼稚園の評議員を務める。2004年より東海大学付属本田記念幼稚園園長を務め、東海大学文学部非常勤講師として「児童サービス論」(図書司書課程)を担当する。また、東海大学一貫教育委員会で、フィンランドの教育を研究する。(『出る杭を伸ばせ』共著 発明協会)2007年フィンランドより講師を招聘して国際シンポジウムを開催する。 -
先生石橋宏之さん2001年、東海大学動力機械工学科を卒業後、機械系商社に就職。日本の技術力(ものづくり)の素晴らしさを感じつつも、諸外国の追い上げに危機感を感じる。2003年、東海大学付属本田記念幼稚園に就職。幼児期の子どもたちに、遊びながら科学や『ものづくり』の楽しさを味わってもらいたいとの思いを抱き、子どもたちの主体的な遊びから育まれる創造性の教育について、諸外国の幼児教育に学びつつ実践を始める。2009年、スカイプ(無料TV電話)や共有サーバを用いて、日本・フィンランドの子どもたちと合同で、アニメーション制作にも着手。幼児期における科学遊びなどを通じた創造性の教育(知的財産教育)を主要な研究テーマとして、論文発表、海外訪問等、精力的に研究・実践活動を進め、現在に至る。
はじめに
東海大学では、2001年、ちょうど当時の小泉内閣が「知財立国」を唱えた頃に、知的財産に関する教育・研究プロジェクトを始めました。その一環として、同大学付属の本田記念幼稚園でも、2004年から本格的に知財教育への取り組みを始めたそうです。でも、幼稚園で「知的財産」って?どうやって、何を教えるのでしょうか?さっそく、園長の高橋功先生とご一緒して、教室へおじゃましてみました。

教室に絵本を持って現れた高橋先生が、みんなのお気に入り『だるまさん』(かがくいひろし作)を読み聴かせ。つばめ組の子どもたちへのサプライズです。だるまさんがいろいろなことをするたびに、子どもたちもだるまさんと一緒に跳んだり跳ねたりころがったりの大はしゃぎ。「だるまさんが・・・」一瞬、先生を見つめる眼が真剣。そしてバクハツするような笑顔がはじけたりもします。
作者とのかかわりのなかから、「他者へのまなざし」が生まれる
高橋園長、石橋先生のお話
読み聴かせのとき、最初にタイトルと作者名を読みあげるんですね。
そうして読み聴かせをすると、「この人の本は、どこかで見たことがある」「もっとこの人の本を読みたい」、といった声がよく上がるようになるんです。「誰がつくったんだろう」という意識はとにかく強く持つようで、ある作品が気に入ると、図書館に親御さんと行って、その作者名で検索して他の本を探す、ということがすっかり定着しています。親子で図書館に行くという生活習慣が身に付いているんですよ。図書館に行列ができてしまって。だから図書館からは、ずいぶん迷惑な幼稚園だなと思われているかもしれない。(笑)
最近では、どんな絵本が人気なんですか?
その時々によって、子どもたちの間でブームとなるような絵本がありますが、最近では、『だめよ、デイビッド』(David Shannon 作、小川仁央訳)や、さっきの『だるまさん』がとても人気があります。読み手としても心が入るように、作者の世界観と共感できるものを教員が選んでいます。地域で開かれる絵本の研究会に、講師として参加することもあり、そういう場で作者の熱意をみんなで感じて、お互いに伝え合っているんです。
ボクも、ワタシもアーティスト!受け手から創り手へ
教室に子どもたちの絵がたくさん飾ってありましたね。
子どもたちが本を手づくりするんですよ。たとえば、「おもしろいもの」というテーマで、デジカメを持たせ、何でもいいから身の回りで興味をもったものを写し、それにキャプションを書き込む。そんなことをやっています。グループ制作をすることもありますが、一人で作品をつくる場合、必ず「○○○作」というクレジットを入れています。日常的に「これは誰の作品か」という意識が身に付いていると思います。
「誰がつくったんだろう?」っていう興味は、親ではない、第三者へ向けられた意識です。園では「手紙を書く」ということをやっていますが、3歳児の場合ほとんどといっていいほどお母さん宛てなんです。ところが、年中、年長になるにつれて、他者へ向けた手紙が増えてきます。世界がそれだけ広がっていくんですね。まさにそういう時期に、作者との触れ合いがあるわけです。
有名な作家の方だけではないんですよね、「作者」というのは。もっと身近なアーティストはたくさんいるわけです。そして自分も、友だちもアーティストなんだ、と。
絵本の読み聴かせで接する作者を身近に感じて「あの人の本だ!」と、無意識に作風を感じ取っているんですね。谷川俊太郎さんなど、日本語の面白さを引き出す素晴しさがあります。そういうところは子どもたちにもちゃんと伝わっていますよ。
作者とのステキな交流が芽生えた
クリスマスには、『クリスマスの物語』(Felix Hoffman/文・絵 生野幸吉/訳)の朗読劇を開くのが毎年の恒例で、700人ものご家族が見に来てくださいます。毎年、作者の息子さんのディーター・ホフマンさんに許諾をいただいています。ご本人は「許諾は不要です」と言ってくださるんですが、それでも毎年ドイツ語で手紙を出すと、「よいクリスマスを!」とお返事をいただく、そんな交流が毎年続いているんですよ。

しかし、おおぜいを前にして絵本、となると見せる工夫も必要ですね。
絵本をコピーしてOHPで大きくスクリーンに映写することがあります。その場合には必ず出版社に連絡をしています。出版社によってはコピーの許諾が得られない場合もありますが、記録に残らない形なら許諾を得られる場合もあります。その場合には、「OHC」(オーバーヘッド・カメラ)といって、ページをカメラで写し、リアルタイムで投影する機材を用いています。
これに関しては、エピソードがあるんです。『ティラノザウルス』(宮西達也作)という作品を取り上げたとき、OHPの作成にあたって、出版社を通して作者と手紙をやりとりするようになりました。そうしたら、宮西さんからこんなお手紙をいただいたんです。
「ぼくのなかでのラストシーンのあとは、どれもすべてハッピーエンドです」
絵本では、恐竜は死にそうになって終わるんですが、実は子どもたちも「本当は恐竜は生き返るんだ!」と信じている子どもが多いんです。そこで、この絵本の続きの話をみんなでつくろう!ということになったんですよ。何ページにもなる、新しい絵本ができあがりました。こんな物語になるんだ!私たちも、そして作者の宮西さんもびっくり。宮西さんからは「子どもたちの創造力に完敗!」とあらためてお手紙をいただいたんですよ。