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第3回 櫻井俊彦さん~楽譜販売者の立場から~

第3回 櫻井俊彦さん~楽譜販売者の立場から~

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小森:コピー、携帯、と便利な道具が増えていますからね。

櫻井:便利といえば、楽譜作成ソフトの普及も影響が大きいですね。スコアを買って、自分でパート譜を起こすことが簡単にできてしまう。うちは楽譜作成ソフトの販売もしていますから、ちょっと複雑な気持ちですね。音楽大学の学生も、そういったソフトを持っていますね。オケも。吹奏楽部を受け持つ学校の先生方も楽譜作成ソフトをお使いですね。打ち込んでつくればそれでいいじゃないか、となるのが怖いところですね。

小森:五線紙の売り上げが落ちているそうですね。前はオケのスコア用に何十段、っていう楽譜が売れたんですけれどもそれもソフトでできてしまいますから。

櫻井:オーケストラの定演などに行って楽譜を見ると、最近楽譜が綺麗なんですね。自分たちでつくっているんです。つくる機械、製本機までお持ちになって。だからパート譜の「買い替え」が起こらなくなっています。汚れた楽譜はそうやって自分のところでつくってしまいますから。そういう場合は別に違法ではないですから困ります。

小森:僕もそういうソフトを使っていますよ。MIDIで聴いてみれば間違いも見つかりますしね。打ち出しも綺麗です。でも気持ちが伝わらない、という気もするんです。やはり手書きのほうが雰囲気が伝わる、ということが。

櫻井:ネット上に著作権フリーの楽譜があったりしてそれをダウンロードして使うケースも少なくないようですね。

小森:もちろんそれで演奏できるわけですが、楽譜として見た目があまりよろしくないし、間違いもある。かなりひどいものも平気で使っているんですね。それに同じ曲でもエディションにいろいろ違いがあったり、割り付け、レイアウトに個性がありますよね。そういう工夫がまったく別世界のことになっていまい、単に情報だけがある、そんな姿ですね。そこの違いに至らないとなかなか難しいと思いますね。本物の楽譜がもつ「質感」というものへのこだわりがあるかどうかですね。

小森:楽譜作成ソフトと言えば、「浄書」という職業が全滅してしまいましたね。ただ最近では、音楽大学でも学生に「手に職を」ということで浄書の技術を教えたりしてはどうかという話がある。アルバイトなり、卒業後なり、そういう仕事をすると、音楽がわかりますから校正もできますし、楽譜のクオリティがかなり高くなると思いますね。近い将来、作曲科のなかにそういう専門のコースができても不思議はないと思うんです。真面目に学生の将来を心配して、そんなことを真剣に考えている先生方もいらっしゃいますよ。

櫻井:声楽科の人間だと、「これを半音移調してやりなさい」と言われれば、昔は自分で楽譜に移調して書いてきたものです。最近では「移調した楽譜はないですか?」と訊かれてしまいます。

小森:音大出身者でも移調をできなくなっているそうですね。ソフトでできてしまいますから。それに全般的に音大生が楽譜を書かなくなったのは、やはり音楽大学でのコピーというのが大きな要因でしょう。

櫻井:音大でも先生方によって考えはさまざまです。本人、先生、伴奏者と3人の楽譜が必要だとして、本人と先生の2冊は買う。伴奏者のぶんは図書館で借りていらっしゃいという先生もいます。コピーで済ましていいよと。大学内にコピー機がありますし、そういうことが当たり前になっていますね。なかなか解決できる問題ではないかもしれませんね。

小森:コピーがこんなに便利で高性能になる前と後ではやはり違いがありますかね。

櫻井:以前はセルフサービスではなく、コピー業者がいましたね。1枚何十円とそれは高いから、一生懸命写譜をしましたよね。そういうことが今はないですからね。音大だったらなぜそれがいけないことなのか、どうなってしまうのか、そこを教えなければならないんじゃないでしょうか。

小森:音大では、以前は入試で音符が書けるかどうかが一つの目安でしたが、今はごくわずかです。単にコピーのことだけではなくて、音符を書く、ということの意味が変わってきているように思います。書くことを知らないで学習ができる。昔は書かなくては伴奏も何も勉強できませんでしたが。コピー機だけのせいではない、教育の形が変わってきているんでしょうね。

櫻井:何事も書くと覚えるんですけれどね。写譜ペン、というのがありましたが、いまはその需要はほとんどありません。年に一度ぐらい、「ペリカンの写譜ペンをください」というお客さんがいらっしゃるぐらいでしょう。ペン先もインク壺も今では置いていません。「銀座の伊東屋さん」を紹介しています。

小森:鉛筆で書く場合もそうですよ。僕の頃は鉛筆の削り方も写譜用の独特な方法があって、作曲科で最初に教わるのがそういうことでしたが、今はそもそも鉛筆を削れない子がほとんど(笑)シャーペンが多いですから鉛筆削りもあまりみかけないですね。

櫻井:小物としてグランドピアノ型の鉛筆削りを売っています。そういうのが意外と売れるんです(笑)。

小森:我々がこういうことを言うのは、不便な時代を知っているからなんでしょうね。若い人たちは生まれたときからこういう便利なものがあって、当たり前になっているから罪悪感がないんでしょうね。教えるっていうことは押し付けるんじゃなくて、基礎を教えるということをやらなければならないんでしょう。罪悪感という話がありましたが、彼らにとってはコモンセンスのようなものですから。

櫻井:ある公開講座のとき、講師の先生が自分の楽譜だからコピーしてかまわない、とおっしゃったんですね。受講者にコピーして配ってよ、と。私どもはそれでは本も楽譜も売れなくなりますし、販売している店ですから講座終了後に回収、廃棄させてくださいと言いました。先生ご自身は親切と思っておっしゃっているんですよね。わざわざ自分の講座を受けにきてくれたのだから、と。でも、それは違うんではないかな、と。

小森:多いですね。善意でおっしゃっているのは分かるんですが。そういう意味では、ユーザーの問題だけではなくて、音楽に関係するさまざまな分野の人たちの共通の問題としてとらえないといけないですね。つくっている人がそういう意識では、楽譜のコピーをやめようっていう意識が育つはずはないですよね。楽譜がどうやってできたのか、創作の段階でどんな汗が流されたか、販売されて自分の手元にくるまでにどんなプロセスがあるかといった認識はほとんどないでしょう。近年、環境問題、エネルギー問題、と社会的にクローズアップされてくると、面倒でもやらなくちゃ、ということになりますから、我々もそういうことをやっていかないといけないのかも知れませんね。

小森:お店の話にもどりますが、お客さんというのはそもそもどれぐらい来店するんですか?

櫻井:レジを打つ回数、ということでカウントすると、月に万の単位ですね。勘定をされた方が1万人ということは同伴の方も含めれば売場にいらっしゃるお客さまがすごい人数であることは確かなんです。ただ、20年前と比較すると増えていますが、ここ数年では横ばい状態でしょうか。

小森:客層というのは変化していますか?

櫻井:いや、それほど変わっていないでしょう。渋谷店ですと若い人、ポピュラー系が多いという傾向がありますが、銀座店だと年配の方も多いですし、プロの方も多い、はじめての方も多い、オールマイティな店ですね。

小森:そういえば銀座には老舗のライバル、山野楽器店がありますね。競合するところもありますか?

櫻井:山野さんに注文したのに、うちにいらして、承っていませんと言うと怒られたりします。で、裏で山野さんにお電話すると、「承ってますよ。」と(笑)。そういう、お店を間違えてくるお客さん、お互いにいらっしゃるんですよ。ということはある程度お客さんが共通しているんでしょうね。山野さんは新店舗になって楽譜の売り上げが伸びているようです。あちらはポピュラー系は強いですね。新しく店舗を建て替えたとき、楽譜売場をとても広くしたんです。それを機会に、山野とヤマハで一緒になって楽譜をもっと盛り立てよう、ということでイベントをしようと話をしたことがありました。スタンプラリーとか、同じテーマでフェアを共同でやろうとか考えていたんです。結局立ち消えになってしまいましたが。

小森:そういうことが実現したら相乗効果で銀座に行く楽しみが増えますね。そういう試みも含めて、いろいろセールスの工夫をされているんだと思いますが、たとえばモーツァルト・イヤーの効果などは大きかったのでは?

櫻井:いちばん大きかったのは、書籍の売り上げ点数が伸びたことです。それからベーレンライターがモーツァルトフェアをやり、私たちも楽譜セールスに力を入れました。CDとのタイアップセールスですとか。モーツァルトのときはとにかく盛り上がりましたね。バッハやベートーヴェンもやりましたがやはりモーツァルトは圧倒的です。やはり一般のお客様が親しみやすい作曲家だからでしょう。

小森:ところでヤマハさん、今度建て替えて、楽譜売場が最上階に移るということですが、最上階だと行きにくくありませんか?

櫻井:いえ、店づくりのセオリーとしては、シャワー効果、噴水効果といいまして、一度お客さまをエレベーターで最上階まで上げて、そこからエスカレーターで降りてきていただくのが効果的なんです。1階から上にだんだん昇っていく、というのではお客さまは動きません。それとなんといっても集客力があるのは楽譜売場ですので、それを最上階というのはセオリーどおりですよ。ただ、新しいヤマハ銀座店の最上階、13階(予定)は楽譜売場ではありません。何階にできるかお楽しみください。

小森:今回の改装でフロアは広くなりますか?

櫻井:消防法の規制が非常に厳しくなってきていますので、そういったところでスペースをとられてしまい、売り場面積を増やすのは難しいですね。棚を上に上げていくしかないんです。そうしないといろいろな分野の楽譜を多く置くことはできないですね。ただ海外のお店と比べても、やはり銀座店は大きいと思います。日本の楽譜店は開架式が基本で、みなさん手に取ってみられますが、ニューヨークですと開架が少なくて、バックにたくさん。ヨーロッパにしてもそういうお店がありますね。

小森:そうなんですか。棚で商品を手に取るというのは日本ではごく当たり前ですけれどね。僕は若い頃ヤマハ銀座店にはずいぶん貢ぎましたよ(笑)。お世話になりましたね。

櫻井:お客さまの住所をみると、地方からのお客さまも多いんです。古いサービスカードを大切にお持ちになっていらして「まだ使えますか?」とおっしゃられたり。

小森:やはりお客さんに愛されるお店なんですね。東京に行ったらヤマハに行こう(笑)、というヤマハ詣でのようなことがあると思いますよ。棚にある楽譜、スコアを手にとって眺める、読むだけで楽しくて。机がありましたから洋書の目録を借りて楽譜を探してみたり。そういう図書館、博物館のような存在でもあるんでしょうね。本物の楽譜っていいな、手にとってみたい、あこがれがあるんですよ。楽譜がどんどんバーチャルなものになってきている。そのとき実際に手に触れて、「本物へのあこがれ」の気持ちを持つのは大事だなと思うんです。