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櫻井 俊彦
<プロフィール>
櫻井 俊彦
1947年東京に生まれる。中・高校時代に合唱に親しみ、菊地初美、藤沼昭彦両先生に師事して声楽を学び、武蔵野音楽大学音楽学部声楽専攻に入学、卒業する。その後音楽教師を経てヤマハ(株)に入社し、旧浜松支店で楽譜・CD・ピアノ販売を経験する。1978年よりヤマハ銀座店で楽譜売場を中心に20数年勤務する。現在もヤマハミュージック東京・銀座店で主査として楽譜販売に携わっている。
対談 第3回 「楽譜のコピーについてこう考える」
 クラブ活動や音楽サークルなどで、今、楽譜がどのように利用されているか、また楽譜の無断コピーを防止するにはどのようにしたら良いかなどを、楽団・合唱団を指導する先生方や関係者の方々、楽譜出版・販売事業に携わるスタッフに尋ねるコーナー。第3回は、潟с}ハミュージック東京・銀座店で楽譜販売を担当する櫻井俊彦さんを迎えてお話を伺いました。
 
いろいろな音楽体験を経て 楽譜には気持ちが込められている
楽譜の神様と出会う 音大生が楽譜を書かなくなった
パイは小さく、競争は激しく 楽譜セールスの工夫やしかけ
楽譜に対するこだわりが減っている? 楽譜販売の形態も変わっていく
コピー問題について おわりに
店頭の困ったお客さん
〜この楽譜は「今はもうありません、絶版です」とお客さまに言わなければならないときがいちばん辛いです。「お客さまが欲しいときに欲しいもの」をお渡しできる、そういうことが販売している者の喜びですね。〜(櫻井)
〜若い頃ヤマハ銀座店にはずいぶん貢ぎましたよ(笑)。お世話になりましたね。棚にある楽譜、スコアを手にとって眺める。いいな、と思うんですよ。楽譜がどんどんバーチャルなものになってくる。実際に手に触れて、「本物へのあこがれ」の気持ちを持つのは大事だなと思うんです。〜(小森)
小森:
櫻井さんは武蔵野音楽大学の声楽科のご出身ということですが、そもそも音楽にかかわりのあるご家庭だったんですか?僕の場合、父はN響のティンパニスト、母親も音楽が好きでしたので、わりと自然にすっと音楽に入っていったように思います。櫻井さんが音大を受験されたきっかけは?
1. いろいろな音楽体験を経て
対談写真01
櫻井:
父はどちらかというと歌舞伎が好きでしたね。姉はハープをやっていましたが、僕はというと、とにかく小さい頃から歌を歌うことが好きでした。当時は小鳩くるみさんとかが活躍されていた時代で、ビクター少年合唱団なども人気がありましたし、そういうところへ入りたいなとはずっと思っていました。その当時、テレビが普及しはじめた頃でしたので、私もテレビに出る人になりたい、と。それで、高校生から先生について本格的に歌を習って、武蔵野音大の声楽科に入りました。
小森:
どちらかというとクラシックよりもポップス指向だったんですか。
櫻井:
そうですね。卒業後、あるコーラスグループにエキストラで参加したり、NHKの録音で歌ったりしました。東京放送合唱団にいらした方から、いろいろ歌の仕事をいただきました。また日本テレビの「ゲバゲバ90分」(注1) とか。あと、アルバイトとしてある歌劇団のバックコーラスもやりました。舞台裏の見えないところですけど、これは内緒にすべきかもしれません(笑)。
注1: 『巨泉×前武ゲバゲバ90分!』1969年秋から1971年春に日本テレビ系列で放送された人気バラエティ番組
小森:
しかしそこからヤマハの仕事にどうつながって?
櫻井:
そもそもは在学中に、アルバイトをしませんか、と大学内の売店で声をかけられたのです。それでヤマハの銀座店で夏休み、冬休みにアルバイトをしました。それがヤマハとの出会いです。 また、テレビ局などの仕事もとても面白い世界でした。でも自分はやっぱり芸能界的なことには向かないかな、父はサラリーマンであまりいい顔はしてくれなかったので、それじゃあ学校の先生を目指そうかな、と。ただ先生をすると声がつぶれてしまうことがあるから、歌を歌いながらというのは大変だなあとも思っていました。
2. 楽譜の神様と出会う
対談写真02
櫻井:
そんなとき、高橋淳さんというヤマハの方との出会いがありました。ヤマハで仕事をしないかと声をかけていただき、試験を受けたのです。入社して最初は浜松で、新規開店する店の楽譜を担当しました。ただ楽譜だけやっていたのではなくてピアノの販売や、学校まわりも経験しました。そのうち東京に転勤となり、新しい部門ができるということで一時ピアノの販売もしましたが、やはり楽譜売場で楽譜の販売をしたいということで戻していただきました。
小森:
楽譜にこだわったというのはなぜでしょう?
櫻井:
学生のとき、シューベルトの「冬の旅」とか歌いますよね。リート・オラトリオ研究部というのに入って勉強していたのですが、あるとき、楽譜は出版社によって違いがあるよ、っていう話になったんです。“ペータース”(注2) 、“ブライトコプフ”(注3) とか“ベーレンライター”(注4) とか、同じ曲でも校訂が違うということがありますね。ああ、それって面白いもんだな、楽譜がなけりゃ音楽が始まらないな、と。アルバイト時代に入荷した楽譜に値段を貼ったりしていると、珍しい、知らない作曲家の楽譜を見ることが度々できました。ああ、面白いなと。
注2: C.F.Peters(ペータース社)1800年設立で緑表紙の楽譜は世界中で使われている。
注3: Breitkopf & Hartel(ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社)1719年創業 ヨーロッパ最古の出版社のひとつ。
注4: Barenreiter-Verlag(ベーレンライター社)1923年設立 ドイツの楽譜出版社。
小森:
高橋さんというと「楽譜の神様」と呼ばれているとのことですが。
櫻井:
やっぱり楽譜のことは何でもよくご存知ですよ。ほとんど楽譜の道しか歩んでこなかったと思います。大学時代だと思いますがアマチュアのオーケストラで弦楽器をなさったそうです。ヤマハでの楽譜の輸入、仕入れなどの基礎をつくった人ですね。今でもお付き合いがあります。月に一度ぐらいお見えになります。
小森:
今では桜井さんがその「楽譜の神様」の後をお継ぎになっているんですね。ところでお店での楽譜販売の現状について教えてください。7万冊ぐらい在庫があるとのことですが。
3. パイは小さく、競争は激しく
対談写真03
櫻井:
実は今、銀座店は建て替えのため有楽町駅近くの仮店舗で営業しておりまして、楽譜の点数でいえば以前の75%ぐらいに在庫量をおさえています。点数と言うのは微妙なところで、カウントの仕方にもよりますし、実は何がどれだけあるかというのは、すべてを正確に把握するのは機械化しないと無理ですね。
小森:
ヤマハさんの品揃えの特徴というのはありますか。売れ筋の楽譜というのはどんなものでしょうか?
櫻井:
そうですね。売り上げ冊数ではピアノ、単価で大きいのは吹奏楽です。あとは音楽書、スコアの売り上げが多いですね。地方ではスコアというのはほとんど売れないと聞いております。銀座店はちょっと特殊なところがありまして、洋書(輸入楽譜)の割合が高いんです。洋書のシェアはかつては65%ぐらい、それが一時半々ぐらいに落ちて、最近はまた少し上昇しています。洋書の版権をとって和書として出版社が新しいものを出すことが減っているのも原因ではないかと思います。地方に行きますと洋書はほとんど置いていませんし、ヤマハの特約店で楽譜の売上げを考えているお店ですと、これはよく売れるものですからぜひ置いてください、とセールスしないと在庫にはなかなかしないですね。店頭に置くのはほとんど和書ですね。楽譜を置く特約店が少なくなってしまいました。
小森:
地方では販売店が減ってきている?
櫻井:
やはり少子化でピアノが売れない、楽譜も売れない、という状況ですね。 昔はピアノを買うための積立金制度のようなものがありましたが、今はそのような制度が成り立たない。趣味の多様化で、音楽だけやっている人も減りましたし、子どもにピアノを習わせようという人も減ってきています。以前は、新学期は需要期で、ピアノの先生がバイエルの楽譜を10冊くらいまとめて買っていかれる、というのが普通でしたが、それが今はありません。生徒が少なくなっているということだと思いますね。
小森:
そういえば、最近は一般の書店で楽譜をよく見かけるようになりましたね。
櫻井:
紀伊国屋やジュンク堂、そういった一般の書店ですね。大型化が進んで、ポピュラーが中心ですが楽譜の扱いが増えて充実していますね。音楽関係の書籍もすごいですね。品揃えが豊富です。以前は音楽書籍といえばヤマハに来ましたが、今は一般書店が我々以上に充実させてきています。これは脅威です。
小森:
そういう意味では市場は小さくなってきているけれど、販売店は増えて大型化している、競争としては激しくなっているのでしょうかね。
櫻井:
講談社や小学館など大手の出版社がけっこう音楽書を出しています。音楽家が書いたエッセイなど、読みものも値段が安いですね。専門の学術書的な意味合いの書籍ではなくて、一般書店で平積みして売れるような性質の商品が増えているのも最近の特徴でしょうか。
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