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対談「楽譜のコピーについてこう考える」
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古橋 富士雄
<プロフィール>
古橋 富士雄
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 指揮法を斎藤秀雄,高階正光,紙谷一衛,作曲を島岡譲,矢代秋雄,ピアノを宮島敏の各氏に師事。1973年まで原信子(日本のオペラ界の草分け的存在で,日本人で初めてミラノ・スカラ座で活躍したソプラノ歌手。五十嵐喜芳,伊藤京子など,数多くの世界的オペラ歌手を育てた)オペラ研究所の専属ピアニストを務める。1962年NHK東京児童合唱団(元東京放送児童合唱団)に指導スタッフとして入団。その後,音楽監督に就任。
 1966年同団卒団生による東京トルヴェールを結成し,1970年「全日本合唱コンクール」一般の部で金賞を受賞し,合唱指揮者としての地位を決定づける。また,NHK東京児童合唱団は1968年「BBC世界アマチュア合唱コンクール」第2位,1982年「ゾルタン・コダーイ生誕100周年記念国際合唱コンクール」青少年部門第1位,1989年「EBU(世界放送連合)主催の国際合唱コンクール」第1位。モービル児童文化賞,日本童謡文化賞など,受賞多数。音楽監督として,様々な活動が高く評価され,同団を日本の音楽会になくてはならない存在へと育てた功績は大きい。NHKみんなのコーラスにレギュラー出演しているほか,講習会,コンクールの審査など,常に合唱界の指導的立場を担っている。
 現在,NHK東京児童合唱団名誉指揮者,日本合唱指揮者協会理事長,浜松市アクトシティ音楽院音楽監督,日本コダーイ協会理事,東京家政学院短期大学講師。
対談 第1回 「楽譜のコピーについてこう考える」
 クラブ活動や音楽サークルなどで、今、楽譜がどのように利用されているか、また楽譜の無断コピーを防止するにはどのようにしたら良いかなどを、楽団・合唱団を指導する先生方や関係者の方々、楽譜出版事業に携わるスタッフに尋ねるコーナー。第1回は日本合唱指揮者協会(JCDA)の古橋富士雄理事長を迎え、お話を伺いました。
(下記タイトルをクリックすると、各セクションへリンクされます)
著作権の認識は変化している 編曲について
学校教育の現場では 楽譜は高いか? 安いか?
楽譜を入手するときの問題は? 楽譜を持つ、という価値観
「版面権」のこと 楽譜コピーの問題は音楽の「環境問題」
小森:
私たちCARS(楽譜コピー問題協議会)は、楽譜を適正に使っていただきたい、ということをアピールしているのですが、私たちが通常持っている意識と、楽譜を実際にお使いになる方々の意識に距離のようなものを感じています。古橋先生は日本合唱指揮者協会の理事長を務められ、合唱演奏の現場に最も近く、東京NHK児童合唱団での長年の指導や、コンクールの審査員、講習会の講師、また放送・録音なども含めて多彩な音楽活動をされています。その経験から「ユーザーの立場」「クリエイター(実演家)の立場」、その両方の視点でお話いただけたらと思います。
1. 著作権の認識は変化している
〜市販されている楽譜の無断コピーはいけない、という認識は、以前と比べてはるかに高まっていますよ。ただ、全般的にはまだまだ無断コピーの問題は根深いでしょうね。〜(古橋)
対談写真01
小森:
僕は昭和19年から中学でコーラスを歌ってきました。そのころはガリ版で楽譜を刷っていましたね。終戦直後はジャズバンドの楽譜を使っていましたが、今日持ってきたこの楽譜、実はこれ、海賊版なんです。進駐軍の兵隊が持っていた楽譜から写したの。でも高校時代から、これはいけないんだ、アメリカの出版社にみつかると、みたいな話はしていたんです。古橋先生は、指揮者の立場として、合唱団員の皆さんに「楽譜を買いなさい」とは言いづらい、というようなことはありますか?
古橋:
そういうことはないですね。私はNHKの文化センターで合唱を教えているんですが、お見えになる受講生には70、80代の方も多いんです。そういう方々にも「楽譜は買いましょう」と勧めるようにしています。市販されている楽譜の無断コピーはいけない、という認識は、以前と比べてはるかに高まっていますよ。指揮者もみなコピーはやめようと言っていますし、NHK全国学校音楽コンクールなど見ても変わってきていますね。今では当然のように審査員に楽譜を提出しますが、はじめの頃はコピーでもいいだろう、なぜ楽譜を提出せねばならないのか、といろいろ言われました。ただ、全般的にはまだまだ無断コピーの問題は根深いですね。なんとかしたい、という気持ちはみんなあるんですが。
小森:
オンデマンドの楽譜屋さんからきいた話ですが、2部とか3部とか合唱の楽譜の注文がくる。で、本当は何部必要ですか?となる(笑)。そうすると、いや3部でいいです、と(笑)。
古橋:
ヨーロッパの出版社だと、まず曲の試しに、と1部送ってくれて、気に入れば人数分買う、そんな信頼関係があって送ってくれるんですよ。日本の場合、それができない。1部送るとぜんぶコピーされると思われてるの(笑)。ある海外の出版社では1部売ると日本人はコピーするから売らない、と言われたこともあった。日本のコピー問題は海外でも有名になってしまっているんですね。
小森:
コピーも安くできるようになりましたしね。コンピュータやネットなど、環境としてそういうことがやりやすくなっているんですね。
2. 学校教育の現場では
〜「わからない」というのがやはり一番いけないんだろうな、と思います。わからないからいいや、とならず、調べよう、というふうに。まず知ってもらうことに重点を置かねばならないなと思います。〜(小森)
古橋:
僕は音楽大学でも教えていたのですが、授業でのコピーはOKです、と言われていますよね。ところがピアノ科は人数が多く、一回に100人分刷りたい訳です。するとそれはダメです、30人ならいいです、と言われました。それは何なんだ、と思うわけ。それと小中高の様子を見ていると、コンクールの時期、やはりコピーが多いですね。 授業での教材としてならOKでもコンクールは外に出て歌うからダメなんだ、という区分けを先生はよくわかっていないんです。学校の輪転機で刷ったりしてる(笑)。楽譜が傷まないようにコピーをとって使う、っていうのもありますが。 それと、コンクールで審査員をやってみて、やはり大変だな、気の毒だな、と思うのは、たった1曲だけでも審査員用に分厚い楽譜を買っているんですね。なんとかしてあげたいとは思いますね。こういう申請をしたらコピーでもいい、そんなルールがあればいいんですが。
小森:
やはり審査員用の楽譜コピーの許諾の問い合わせは多いようです。楽譜を買って、それを大事にとっておいて自分用にコピーをとる、っていうのならそれは私的使用ですから著作権法上全く問題はないんですけれどもね。でも、NHK全国学校音楽コンクールで、出場人数分楽譜を刷 っても余る、ということが以前はよく言われました。やはり買っていない学校もありそうだ、と。課外活動は現在、学習指導要領に定められた授業とは別もので、その場合は楽譜をお買いいただかねばなりません。コピーをする場合は許諾が必要です。コンクールもそうですね。CARSのホームページに、学校からの問い合わせはけっこうあります。リーフレットをみて理解した、というコメントはうれしいです。なんとなく意識としてお持ちでも、はっきりとわからないままだった先生方は少なくないですが、国が「知財立国」とうたい、知的財産権を重視した流れというのはやはり大きいと思います。CARSの取組みに対する反応にもそれがようやく形となって現れてきているようで。「わからない」というのがやはり一番いけないんだろうな、と思います。わからないからいいや、とならず、調べよう、というふうに。まず知ってもらうことに重点を置かねばならないなと考えています。
3. 楽譜を入手するときの問題は?
〜楽譜の出版が売れっ子作曲家に偏ってしまう傾向にありますね。本当は新しいものが出れば、積み重なってラインアップが豊富になるはずなのに、結局古いものをカタログから落として新しいものに移り変わるだけ、となってしまっているんですね。〜(小森)
小森:
最近の合唱界の傾向として、アマチュアでも、新しい作風の作品をどんどんとりあげる、ということが増えていると聞くのですが、新しいジャンルを切り拓こうよ、という気持ちが合唱団にも指揮者にも、あるいは作曲家にもあります。
古橋:
その傾向がいま顕著なのは高校生なんです。昔は大学生のレベルが高くて素晴らしかったんですが、今は高校がそれにあたって、意欲的な学校は委嘱をする。もちろん、大人の合唱団の委嘱も今、非常に盛んです。ただし、いちばん売れっ子の作曲家に頼む、ということがどうしても集中してしまう傾向にありますね。
小森:
そういう曲はすぐに楽譜が出版されていますか?
古橋:
やはり実力がある合唱団が歌う、ということで出版社も注目しているので比較的出版されやすいようですね。人気のある作曲家ならなおさらでしょう。
小森:
そうすると出版が売れっ子に偏ってしまう傾向になりますね。本当は新しいものが出れば、積み重なってラインアップが豊富になるはずなのに、結局古いものをカタログから落として新しいものに移り変わるだけ、となってしまっているんですね。古い、いい曲が品切れのまま、ということもあるようなんですが、古橋先生は楽譜が手に入りにくいとき、どうされていますか?ふだんライブラリアンの方々から楽譜の調達について何か相談を受けたりしませんか?各出版社のデータベースを横断的に検索できるといいな、というような声はありますか?
古橋:
国内出版の合唱作品に関する限りは、全日本合唱連盟の機関誌「ハーモニー」で、出版情報が毎号積み重ねられていますね。あと、合唱指揮者協会の会報には、会員がいつどういう演奏会をやったという記録があって、これが一種のデータベースとなって役立っています。販売店でいうと、東京では大きな楽器店などで比較的手に取りやすい。でも地方に行くと本当にお店がありませんね。そういうときパナムジカ(京都の楽譜店)の情報などは助かります。僕は、ここで買ったらいいよ、とかパナムジカに聞きなさいとか、その程度の話しか合唱団員にはしませんが、今はネットの情報が豊富ですから、誰でも検索で情報を非常に得やすくなりましたね。
小森:
物販レベルでは、「楽譜net」というサイトがありますね。国内の楽譜の範囲では大きいデータベースです。
古橋:
で、品切れの楽譜に関しては、最近はオンデマンドで頼む、ということが増えましたね。ダウンロードで楽譜を買う、というシステムがあると聞きましたが、これは最近どうなっているんですか?
小森:
ダウンロード販売は、ピアノの楽譜などでは普及しつつあるようですが、合唱の場合には同じ楽譜を大人数が使いますから、1部だけダウンロードしてコピ−されてしまうということがあって、このシステムにはあまり向かないようです。ただ、プリントではもう出せなくなってしまったような古い作品を、ダウンロードで提供ということは考えられるでしょうね。コピーされてしまうことをある程度覚悟して。全く入手できません、というゼロの状態よりは、たとえ1部だけ売れてコピーされるとしてもそのほうがいいと。それで人気が出ればまた紙の出版で、という可能性も出てきますから。そういうことは今、考えられているようです。
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